上告理由書
2007 / 11 / 04 ( Sun ) 原判決の判断には憲法解釈の誤りないし憲法違反があるか、理由不備・理由齟齬があるので、民事訴訟法312条1項、2項6号の上告理由がある。
事案の概要 従来、婚外子は戸籍における父母との続柄欄に「男・女」という、およそ続柄を表さない差別記載がされ、それによって社会的差別が助長され、蔑視、侮辱等を招き、婚外子当事者は甚大な不利益と精神的苦痛を味わってきた。 その「男・女」という差別続柄を撤廃するにあたり、法務省はホームページ上の平成16年3月9日(火)野沢法務大臣(当時)閣議後記者会見の概要で明らかにしたように、「人権の基本に立って」議論をすすめた結果、婚外子に対する「差別があってはならない」 ので、「男・女」という雛形を削除するとした。 平成16年3月9日(火)野沢法務大臣閣議後記者会見の概要は以下のとおりである。 Q:変えることを決めたということでよろしいでしょうか。 A:昨日の決算委員会での答弁どおり,その方向で検討するということです。 Q:具体的には,国会のどこの場で議論することになりますか。 A:規則ですので,法務省だけでできます。 Q:そういう方向性を決めるに至った理由について,大臣はどのように考えていらっしゃいますか。 A:これは,国民の皆様からの御要請が第一にありますし,人権といいますか,生まれた子供たちにはいずれも差別があってはならないわけですから,その基本に立って議論を進めたということです。それから,国際的にも差別をしていないところが段々多くなっているということもございます。 このように担当大臣が、「人権の基本に立って」、「生まれた子供たちにはいずれも差別があってはならない」として続柄差別記載の撤廃を行うとしたにも関わらず、すでに差別記載のある戸籍の内で現行の除籍されていない戸籍のみを対象とし、その余のすべての戸籍には差別記載を維持するという通達を発出した。その理由として、公務員の事務量が増えることを挙げた。 これは、婚外子当事者である上告人の人権を低く見積もる行政の婚外子への差別意識のあからさまな表れであり、二重の侮辱であるとして、精神的苦痛に対する損害賠償を求めたものである。 原判決は、婚外子の「男・女」という続柄差別を、民法900条4号で婚外子相続分差別を定めているので、戸籍において婚外子であることが明確になるよう記載されても不相当とは言えないとして、最高裁平成7年7月5日大法廷決定で婚外子相続分差別規定は憲法に違反するものでないとされたことを根拠としている。 これでは、戸籍法の立法目的は相続分差別をさせるためであり、その立法目的達成手段として、戸籍において婚外子であることを明確に記載する必要があるとしているようなものである。 (1) 行政による人権侵害は違憲である。 婚外子相続分差別規定は、婚外子を社会的に差別しても違憲・違法ではないという法的根拠にはならない。 第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。 婚外子への法制度上の差別を根拠にして、社会的差別をしても差し支えないという間違った考えをすることが充分に推測できるので、国には婚外子に対する社会的差別を一切起こさせない責任が生じるのである。憲法擁護義務を定められた公務員には、当然その義務があるのである。 第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 しかし、国は戦後全く婚外子について人権啓発をしてこなかったことで(この事実は、法務省人権擁護局に確認済みである)、婚外子が平穏な社会生活を送る上での安全配慮義務を怠ってきたのである。 そればかりか、国は戸籍法においては、嫡出か否かで、父母との続柄に異なる記載をもとめられていないのに、婚外子についてのみ「男・女」という差別続柄を記載して、婚外子に対する社会的差別を助長してきた。 婚外子の続柄が「男・女」とされたのは、かつて戸籍に「私生子男」「庶子女」と記載されていたところ、「私生子・庶子」という記載が子にとって不名誉であるとして、消除されたからである。結果としておよそ続柄を表さない「男・女」としたまま放置したのは、国の怠慢でしかない。 原判決は戸籍において婚外子であることを明瞭に記載することが、行政上必要であることを、なんら挙げることができなかった。ただ、相続分差別をいうのみである。 婚外子相続分差別は、親から子への相続で起こるのである。相続の開始には、被相続人の戸籍を死亡時まで全て集めて、相続人を確定するのである。そうであれば、親の戸籍から婚姻歴と子の有無がわかるので、子の戸籍に婚外子であることを記載する必要性はない。婚外子相続分差別は強行規定ではなく、補充規定にしかすぎない。あえて、人権侵害を行い自己の強欲を満たそうとする者の便宜を図る必要はなんらない。 一方、戸籍記載において婚外子であることが判明し、深刻な差別を婚外子当事者は被ってきたのである。戸籍法には、婚外子について異なる続柄を記載すべきとする条項はない。ことに、続柄欄は性別欄を兼ねているので、性別を証明する際に必ず求められ、確認するために注視されるのである。 婚外子は、その無目的な記載によって、就学、就職及び結婚等で戸籍を求められるので差別が助長され、また戸籍が人目にさらされることで差別され、蔑視、侮辱の対象とされるのではないかという怖れをいだかされているのである。 そして、幾多の裁判(国を相手どったものを含む)の判決中で、婚外子に対する就職結婚等の社会的差別等があることを指摘されながら、法務省人権擁護局は、現行憲法施行後、全く婚外子についての人権啓発を行っていない。(国として婚外子についての社会的差別についての啓発活動を全く行っていないことは、平成18年12月13日に、人権擁護局に確認済みである。)行政は婚外子続柄差別記載を強行することで、国民に婚外子は別異の劣位の存在であるという観念を生じさせて、婚外子に対する社会的差別すら肯定させる風潮を生み出す等、ひたすら婚外子差別を煽ってきたのである。 すなわち、続柄差別記載は、立法目的を達成するための手段として、著しく均衡を欠き、もっぱら他人に容易に婚外子差別を許し、婚外子当事者の精神生活を疎外し、精神的苦痛を与えるという不利益のみを婚外子に被らせてきたものでしかないのである。 戸籍上に身分関係を明示するという立法目的と、その手段としての婚外子続柄差別記載は、甚だしく均衡を欠くが故に、違憲無効であると、「コメント:婚外子戸籍記載変更請求事件」(国際人権十七号 2006年 現大阪大学法科大学院教授当時北海道大学教授 棟居快行)(甲第48号証)は、結論づけている。 このように、国民に婚外子は別異の劣位の存在であるという観念を生じさせる婚外子続柄差別記載によって、婚外子に対する社会的な評価を低下させるので、客観要件である名誉毀損罪が成立するのである。 最高裁第一小法廷判決 2003(平成15)年03月31日平成14年(オ)第1963号において、 「非嫡出子が本件規定によって受ける不利益は,単に相続分が少なくなるという財産上のものにとどまらず,このような規定が存在することによって,非嫡出子であることについて社会から不当に差別的な目で見られ,あるいは見られるのではないかということで,肩身の狭い思いを受けることもあるという精神的な不利益も無視できないものがある。」 と指摘した最たるものが、「男・女」という続柄差別である。 控訴審準備書面(1)( 平成19年3月 5日)第三 自己情報コントロール権と期待権(17〜20頁)に詳述したように、上告人の関連する戸籍に「男・女」という続柄差別が維持されることは、プライバシー権の侵害であり、自己情報コントロール権の侵害である。 「コメント:婚外子戸籍記載変更請求事件」(国際人権十七号 2006年 大阪大学法科大学院教授 棟居快行)(甲第48号証)によれば、従来、プライバシーについては、「私生活をみだりに公開されないという法的保護ないしは権利」とし、「いわゆる宴の後事件」(昭和39年9月28日下民集15卷9号)による判断が知られているとする。 1. 私生活上の事実、又はそれらしく受け取られるおそれのある事柄 2. 一般人の感受性を基準に当該私人の立場にたった場合に公開を欲しないであろうと認められる事柄 3. 一般の人にいまだに知られていない事柄 の三要件を掲げ、それは現在も広く支持されているとする。 この三要件に照らせば、婚外子続柄差別記載がプライバシー権の侵害となるのは明らかである。そもそも続柄差別記載は、当該私人が婚外子であるか否かを、戸籍を一見すれば明瞭に明らかにするために、法の明文による規定がないのに、法務省が規則のひな形で定めたものである。(法は父母との続柄を記載することを求めているが、婚外子について異なる続柄記載をすることを求めていない。)被控訴人国らによる、意図的なプライバシー権の侵害が、婚外子に対して、一貫して継続的に行われてきたと評価すべきである。 現行の除籍されていない戸籍以外の続柄の更正を拒否するのは、古典的プライバシー権の侵害であるばかりではなく、「自己の個人情報の開示および訂正を請求する権利を保護することにより、積極的に自己の個人情報に関与するいわゆる現代的、積極的意味におけるプライバシーの権利」としての、自己情報コントロール権の侵害である。 法務省ホームページ上の平成16年3月9日(火)野沢法務大臣(当時)閣議後記者会見の概要で明らかなように「人権の基本に立って」議論をすすめた結果、婚外子に対する「差別があってはならない」 ので、「男・女」という雛形が削除されたのである。 このように担当大臣が、「人権の基本に立って」、「生まれた子供たちにはいずれも差別があってはならない」として続柄差別記載の撤廃を行うとしたので、控訴人はプライバシー権等が回復されると期待したのである。そして、期待権、信頼利益は法的保護の対象である。 婚外子続柄差別記載をプライバシー権の侵害とした、いわゆる戸籍続柄裁判地裁判決について、 憲法に合致せず 成城大学法学部の棟居快行教授の話 「戸籍が非嫡出子であることを殊更に明示することで子への社会的偏見を助長し、親の事実婚に筋違いのペナルティーを科すことは、個人の尊厳を基盤に据える憲法の家族観とも合致せず、行政上の必要性に厳格さを求める意味で、妥当な判決だ。」[朝日新聞2004(平成16)年3月3日社会面(38面)] と、解説されたように、「行政上の必要性に厳格さを求める」判断をすべきである。
婚外子差別に謝罪と賠償を!(裁判情報) |
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